管楽器を演奏する人によくおきがちな顎関節症、顎のジストニアやアンブシュア・ジストニアに付随して起こる顎の過緊張をよく目にします。
ここ数年メディアでTCH(Tooth contacting habit)が大きく取り上げられています。要するに「上下の歯をいつも接触させている癖」ですが、この癖が顎関節症のみならず、肩こりや緊張型頭痛の原因にもなるということ、自分で癖をやめることが効率な対処法であることなどが報道されています。
顎の仕組み、噛むシステムについてはご存知の方も多いと思いますが、咬筋と側頭筋という大きくて強い筋肉が働いています。
咬筋と側頭筋 (『ボディ・ナビゲーション』 Andrew Biel 医道の日本社 より)
咬筋はとても強い筋肉で、人体の筋肉全体の中でも1,2を争う位強い筋肉だと言われています。
ギュッと噛みしめていなければ、顎関節症や頭痛の原因にはならないだろう、と思いがちですが、それだけ強い筋肉なので、実は歯が接触している程度でも筋肉の過緊張が起こってしまうらしいのです。
歯医者さんなどでマウスピースを作ってもらうのも一般的ですが、マウスピースは歯が擦れるのを物理的に防いで歯が傷むことは防げますが、筋緊張そのものの根本的な解決にはなりません。
現在TCHの対処法として最も推奨されているのは、「リマインダー」と呼ばれる、普段目にする場所に「歯を離す」というようなメッセージの張り紙をして、自分で思い出すことによって歯の接触をやめていく、という方法です。
自分の習慣なのだから自分で改善できる、素晴らしい発想です。
しかし!
先日一つのことに気づきました。
私のアレクサンダー・テクニークのレッスンを受けに来てくださる方で、「歯を離す」を心掛けているのに顎の状態があまり良くない、という方がいらっしゃいました。
私から見ても、顎周辺や頸の筋肉を固めてしまっているようなので、ふと思い当たることがあり尋ねてみました。
「歯と歯が触れ合わないように、止めようと思っていませんか?」
「はい。正しい位置にしておこうと思っています」との答え。
「止めよう」と思うことによって、結果的には筋肉を使ってしまっていた、つまり緊張させてしまっていたのでした。
姿勢、演奏…、正しいことをしよう、良いポジションにしよう、と頑張ることが緊張、固さを生んでしまうことも多いのです。
今回は、アレクサンダー・テクニーク教師の立場から、TCHを含む習慣へのアプローチの仕方を紹介します。
まず、「上下の歯が接触していない」を実現しようと、顎を特定のポジションにするのではなく、顎周辺の筋肉に無駄な緊張がない結果「上下の歯が接触していない」状態になる、ということを考えてください。
「する」のではなく、「なる」ということです。
たとえば演奏時の「よい姿勢」も、いわゆる「よい姿勢」をするからパフォーマンスが向上するというよりは、パフォーマンスが向上するような効率の良い身体の使い方ができる状態になった結果「よい姿勢」になるのです。
しつこいですが大切なことなのでもう一度(笑)「する」のではなく「なる」のです。
ですから、たとえ歯が接触していたとしても、「あ、開けなきゃ!!」という反応ではなく、「あ、歯が接触しているな」と気付くだけで十分です。
そこから、以下のステップを試してみてください。
1.顎関節の場所や、「噛む筋肉」の役割を思い出します。
2.人間の動きのクオリティに決定的な影響を与える「頭と背骨の関係」を思い出します。背骨の上で頭がバランスをとっている。今から動かすのは顎であって首を縮めたり力ませたりするのではない、と考えてください。(実感がなくてもOKです。むしろ正しくできたか知ろうとしないことが大切です)
3.重力に任せて、「噛む筋肉」をOffにするつもりで、ゆっくり下顎を下げて(口を開けて)みます。(無理に大きな口をあける必要はありません。特に顎関節症の方は注意してください!)
4.再び唇が触れ合う位まで口を閉じます。ただし必要最低限の力で。
どうでしょうか?以上の動作をすると、自然に歯が接触せず、さらに顎周りの余計な緊張も少ない状態を感じやすいのではないかと思います。
アンブシュアの問題や顎関節の痛みのある方にはぜひお勧めしたい方法です。もちろん、アンブシュアや顎関節の問題のない方も、時間も道具もいらないこのような気付きの練習を行うだけで、肩こりや頭痛などに効果があるかもしれません。わずかな時間と意識をご自身のために使ってみてください。
感想やご質問、お待ちしています。
アレクサンダー・テクニーク教師・演奏改善コーチ
佐藤拓
ここ数年メディアでTCH(Tooth contacting habit)が大きく取り上げられています。要するに「上下の歯をいつも接触させている癖」ですが、この癖が顎関節症のみならず、肩こりや緊張型頭痛の原因にもなるということ、自分で癖をやめることが効率な対処法であることなどが報道されています。
顎の仕組み、噛むシステムについてはご存知の方も多いと思いますが、咬筋と側頭筋という大きくて強い筋肉が働いています。
咬筋と側頭筋 (『ボディ・ナビゲーション』 Andrew Biel 医道の日本社 より)
咬筋はとても強い筋肉で、人体の筋肉全体の中でも1,2を争う位強い筋肉だと言われています。
ギュッと噛みしめていなければ、顎関節症や頭痛の原因にはならないだろう、と思いがちですが、それだけ強い筋肉なので、実は歯が接触している程度でも筋肉の過緊張が起こってしまうらしいのです。
歯医者さんなどでマウスピースを作ってもらうのも一般的ですが、マウスピースは歯が擦れるのを物理的に防いで歯が傷むことは防げますが、筋緊張そのものの根本的な解決にはなりません。
現在TCHの対処法として最も推奨されているのは、「リマインダー」と呼ばれる、普段目にする場所に「歯を離す」というようなメッセージの張り紙をして、自分で思い出すことによって歯の接触をやめていく、という方法です。
自分の習慣なのだから自分で改善できる、素晴らしい発想です。
しかし!
先日一つのことに気づきました。
私のアレクサンダー・テクニークのレッスンを受けに来てくださる方で、「歯を離す」を心掛けているのに顎の状態があまり良くない、という方がいらっしゃいました。
私から見ても、顎周辺や頸の筋肉を固めてしまっているようなので、ふと思い当たることがあり尋ねてみました。
「歯と歯が触れ合わないように、止めようと思っていませんか?」
「はい。正しい位置にしておこうと思っています」との答え。
「止めよう」と思うことによって、結果的には筋肉を使ってしまっていた、つまり緊張させてしまっていたのでした。
姿勢、演奏…、正しいことをしよう、良いポジションにしよう、と頑張ることが緊張、固さを生んでしまうことも多いのです。
今回は、アレクサンダー・テクニーク教師の立場から、TCHを含む習慣へのアプローチの仕方を紹介します。
まず、「上下の歯が接触していない」を実現しようと、顎を特定のポジションにするのではなく、顎周辺の筋肉に無駄な緊張がない結果「上下の歯が接触していない」状態になる、ということを考えてください。
「する」のではなく、「なる」ということです。
たとえば演奏時の「よい姿勢」も、いわゆる「よい姿勢」をするからパフォーマンスが向上するというよりは、パフォーマンスが向上するような効率の良い身体の使い方ができる状態になった結果「よい姿勢」になるのです。
しつこいですが大切なことなのでもう一度(笑)「する」のではなく「なる」のです。
ですから、たとえ歯が接触していたとしても、「あ、開けなきゃ!!」という反応ではなく、「あ、歯が接触しているな」と気付くだけで十分です。
そこから、以下のステップを試してみてください。
1.顎関節の場所や、「噛む筋肉」の役割を思い出します。
2.人間の動きのクオリティに決定的な影響を与える「頭と背骨の関係」を思い出します。背骨の上で頭がバランスをとっている。今から動かすのは顎であって首を縮めたり力ませたりするのではない、と考えてください。(実感がなくてもOKです。むしろ正しくできたか知ろうとしないことが大切です)
3.重力に任せて、「噛む筋肉」をOffにするつもりで、ゆっくり下顎を下げて(口を開けて)みます。(無理に大きな口をあける必要はありません。特に顎関節症の方は注意してください!)
4.再び唇が触れ合う位まで口を閉じます。ただし必要最低限の力で。
どうでしょうか?以上の動作をすると、自然に歯が接触せず、さらに顎周りの余計な緊張も少ない状態を感じやすいのではないかと思います。
アンブシュアの問題や顎関節の痛みのある方にはぜひお勧めしたい方法です。もちろん、アンブシュアや顎関節の問題のない方も、時間も道具もいらないこのような気付きの練習を行うだけで、肩こりや頭痛などに効果があるかもしれません。わずかな時間と意識をご自身のために使ってみてください。
感想やご質問、お待ちしています。
アレクサンダー・テクニーク教師・演奏改善コーチ
佐藤拓
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