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レッスンでよく出会う言葉「何も考えない」と「力を抜く」について その2

アレクサンダーテクニーク教師・演奏改善コーチの佐藤拓です。

以前の記事レッスンでよく出会う言葉「何も考えない」と「力を抜く」について その1の続きです。私はレッスン中に、生徒さんが上手くできた時に「今、どうして上手くいきましたか?」と毎回、しつこく聞きます。理由は、私の手助けなしで、生徒さんが自分の力で上手くいく方法をしっかり見つけて帰ってもらいたいからなのですが、そこでよく返ってくる答えが「何も考えずにやったら上手くいったので…」と「力が抜けていたので…」というものです。

前回に続き、ふたつめの「力が抜けていたので」ということについて考えてみます。

まず「力が抜けていたので上手くいった」というのは、「(不要な)力が抜けていた」と「上手くいった」という二つの事実を指しています。順番としては「上手くいった」ときを観察すると「(余計な)力が抜けていた」ということで、では「力を抜く」ことが上手くいく一番いい方法なのか、というとそれはまた別の問題です。

「力を抜きなさい」という音楽教育の現場でよく言われるアドバイス自体は助けにならない、それどころか場合によっては有害に作用することもあると私は考えています。

まず第一に、私たちが「力が入っている/抜けている」と評価するときの基準はあいまいです。演奏のような精密なコントロールを要する運動にはその感覚の基準はあまりに頼りになりません。

第二に、人間の運動のシステムからすると「力を抜く」ことは「力を入れる」ことに比べて意識的にコントロールすることが難しいので、ただでさえ時間的・空間的に緻密に行われるべき運動である演奏に「力を抜く」は効率的な方法とは言えません。

私のレッスンでは、「必要な力を入れる」という指示を出しています。そのうえで、楽観的ではありますが、「本来必要ではないこと(=不要な力を入れる)をし続けるほど、脳は暇ではない」と考えてもらいます。

「緊張とリラックス」については、アレクサンダー・テクニーク教師でチェリストのペドロ・デ・アルカンタラ氏の文章にとても共感しているので引用してみます。

「緊張」という言葉は、何か不安な、良くない(ネガティヴな)響きがする。誰もが「緊張している」と言う時は、緊張し過ぎているということであって、もっと正確に言うなら、緊張すべきでない場所に、間違った種類と量の緊張が、間違った時間の長さでつづいているということだ。緊張そのものはネガティヴなことではない。「緊張は人間の行為には付きものであって、緊張なしで生きることはできない」(パトリック・マクドナルドPatrick Macdonald, The Alexander Technique as I See it,1989)。
 (中略)
 間違った緊張は、たいていは、適切な緊張が足りないために起こる。こういう時には、間違った緊張を直接ほぐそうとしても効果はない。間違った緊張をほぐすには、適切な緊張によって自然なリラクゼーションが起こるのを待つことだ。演奏する時に首・肩・腕が硬くなっているピアニストを想像してみよう。首の緊張は、おそらくどこかほかの場所で必要とされる緊張が足りないのを補っているだけだろう。肩や腕を支えるために、背中や足を正しく使いさえすれば、首は自然にリラックスする―
Pedro de Alcantara(1996) Indirect Procedures: A Musician's Guide to the Alexander Technique/小野ひとみ監訳・今田匡彦訳(2009)『音楽家のためのアレクサンダー・テクニーク入門』,春秋社



アルカンタラ氏のいう適切な緊張というものを私は以下のように順序立てて考えています。今回は説明のために持って構える楽器の例をだしますが、ピアノ、歌なども基本的には同じ考え方です。

1.座る・立つ
2.+楽器を構える
3.+楽器を演奏する(指・息など)

まず、(1)椅子や床に自分(+楽器)の重さを支えてもらい、身体のシステムを効率よく使うことを体験し、それに加えて(2)楽器を持ち上げる力を厳選して使う、そして(3)楽器を演奏する。こうして段階ごとに必要な力を足していく方法を試していくうちに、自然に「不要な力が抜けた状態」になっていくのではないでしょうか。

「力が抜けていたからうまくいった」はあくまでも結果であり、その結果を得るためには「力を抜く」よりも、「必要な力だけを入れる」アプローチのほうが有効な気がしてきませんか?

そして、私たちが「楽器を演奏する」と定義している行為を分析してみると、かなり大きな割合が「座る・立つ」といった日常動作に占められていることに気が付いたのではないでしょうか?

レッスンで一緒に探究してみましょう!


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